大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)3075号 判決

原告

大塚克彦

被告

北桑貨物株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自、原告に対し、金四〇九万四二六一円およびこれにつき被告北桑貨物株式会社は昭和五一年七月二日から、被告上野恒は同年同月三日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれは四分し、その三を原告の、その一を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自原告に対し、金一八一七万七〇〇八円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四九年六月一日午前一一時一五分頃

2  場所 京都府北桑田郡京北町大字比賀江小字勝山八番地先路上

3  加害車 普通貨物自動車(京一一か一二二三)

右運転者 被告上野

4  被害者 原告

5  態様 原告が前記道路の西側から東側にある店へ行こうと、同道路西側に停止していた乗用自動車の南端付近を出て道路中央部分まで出たところ、たまたま木材を積載して同道路を北から南に向つて進行してきた被告上野運転の加害車両前頭部に接触轢過され、後記傷害を負つた。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告北桑貨物株式会社(以下被告会社という)は、加害車を保有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告上野を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として、加害自動車に木材を満載して運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

自動車運転者は運転中は絶えず進路前方の交通の安全に留意し、道路横断者等運転の障害となるものの早期発見に努め、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、被告上野はこれを怠り、進路前方道路西側から東側に向け横断中の原告に気づくのが遅れた過失により、同人を発見後慌てて急制動の措置をとつたが及ばず、自車を原告に接触させ転倒した同人を轢過した。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

左下腿開放骨折、左第一ないし第四趾開放骨折、頭蓋骨々折、右下腿挫滅創(ケロイド形成)、左足趾屈拘縮(第一、二、三指離断)

(二) 治療経過

昭和四九年六月一日から三日まで日赤病院、翌四日から昭和五〇年七月二四日までの間に二一一日間(昭和四九年六月四日から同年九月二八日まで、同年一一月一一日から三〇日まで、昭和五〇年五月一二日から同年七月二四日までの合計二一一日)中馬病院に各入院し、昭和四九年九月二九日から昭和五〇年一一月六日までの間に三九日間同病院に通院して治療に努めたが、なお引続いて治療する必要がある。

2  治療関係費

(一) 治療費

(1) 支出済のもの(二一九万一〇七四円)

京北病院 三〇〇〇円

鞍馬口病院 七八〇〇円

日赤病院 三三万八〇八〇円

中馬病院 一八四万二一九四円

(2) 将来の治療費

原告は、将来第一ないし第四趾拘縮に対する整形手術をうけるための治療費として、二一八万二四四〇円を要する見込である。

(二) 付添看護費

(1) 支出済のもの

入院中母親が付添い、一日二五〇〇円の割合による二一四日分と、前記通院のため三九日間同様付添つたので、一日一五〇〇円の割合による合計五九万三五〇〇円

(2) 将来の付添看護費

原告は、整形手術をうけるため将来少なくとも九〇日間の入院加療、手術施行後延べ四二日間の通院加療を要し、この間いずれも母親が付添う必要があるので、前同様の割合により合計二八万八〇〇〇円

(三) 入院雑費

(1) 支出済のもの

入院中一日六〇〇円の割合による二一四日分(一二万八四〇〇円)

(2) 将来支出が見込まれる分

九〇日間入院の予定なので前同様の割合により五万四〇〇〇円

(四) 通院交通費

(1) 支出済のもの

原告は、退院後も歩行困難のため、当時の自宅(兵庫県宝塚市内)より兵庫県尼崎市内の中馬病院まで通院治療のため合計三九回に亘つてタクシーを往復利用したところ、当初は片道一三〇〇円余であつたが、現在は二〇〇〇円近くなつているので、その中間の金額(片道一五〇〇円)によつて算出すると、合計一一万七〇〇〇円

(2) 将来支出が見込まれるもの

原告は、将来整形手術をうけた後四二日間は通院加療を要する見通しで、そのおりにはタクシーを利用せざるを得ないものであるが、原告は現在奈良公園の近くに居住しているので、大阪市住吉区内の病院までのタクシー代は少なくとも片道四〇〇〇円を要すると考えられるので、この合計三三万六〇〇〇円

3  将来の逸失利益

原告は昭和四五年九月二一日生で事故当時四歳に近かつたものであるが、本件事故による受傷のため、自賠責保険後遺障害等級第九級相当の後遺障害があるので、原告が就労可能年齢に達した後一般に稼働可能と考えられる六七歳までの四九年間に亘り、その労働能力を三五%喪失したところ、これによる原告の将来の逸失利益の算出にあたり、その年収を一一九万四〇六〇円(賃金センサス昭和五〇年度第一巻第一表の男子労働者の平均賃金に五%加算)とみて、年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、七三八万八〇〇七円となる。

算式 一一九万四〇六〇円×〇・三五×一七、六七八=七三八万八〇〇七円

4  慰藉料

原告は、前記傷害治療のため、二一四日間の入院およびその後三一〇日間に及ぶ通院加療を余儀なくされた外、なお将来においても整形手術のため約三か月入院後、三か月通院加療を要する見通しである。また原告は、さきの治療にも拘らず前記九級相当の後遺障害を残しており、左足の親指外二指を切断し、且つケロイド症状がきついため、歩行は現在も不便、困難であるが、この状態は生涯続くものと思われるので、その選び得る職業は自から制限され、婚姻、就学等社会生活のあらゆる面において、終生不利な条件を強いられることとなる。そこで原告のこれらによる精神的苦痛を慰藉するに、金銭をもつてするには少なくとも八五〇万円(うち五〇〇万円は後遺障害に対するもの)が相当である。

5  弁護士費用 一六〇万円

四  損害の填補

原告は、つぎのとおり支払をうけた。

1  被告会社から二五九万一四一三円

2  自賠責保険金二六一万円

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一の1ないし4は認めるが、5は争う。

二は被告会社が被告上野の使用者であることのみ認め、その余は争う。

三については、2(一)(1)(既払治療費)の事実は認めるが、原告の受傷内容は不知、その余の事実は争う。

四は認める。

第四被告らの主張

本件事故は、加害車両を運転していた被告上野において進路前方を注視しながら進行していたにも拘らず、進路前方に停止していた車両の後の陰から原告が突然飛び出してきたため発生したもので、被告上野としては本件事故の発生を防ぐことは不可能であり、同人に過失はない。

さらに、当時原告は両親の買物に同行していたものであるが、両親が自動車を北向きに駐車し、安井商店で買物をしていた際、幼い原告の動静を充分注意していなかつたために、原告が一人で道路反対側まで横断し、再び店の方へ戻つてくる時に本件事故が発生したものであるから、原告の両親には重大な監護義務違反がある。

このように、本件事故は原告側の一方的過失によつて発生したものというべく、仮に被告らにも何らかの過失があるとしても損害額の算定にあたり相当の過失相殺がされるべきものである。

第五被告らの主張に対する原告の反論

本件事故は、被告上野の前方注視義務違反と減速徐行義務違反により発生し、同被告の事故直後の措置不適切により被害がさらに加重されたものである。本件事故発生道路は少なくとも五〇メートル以上に亘り直線状で見通しのよい田舎道であるから、被告上野において前方注視を怠らずに運転していたなら、五〇メートルくらい手前から停止中の被害者側の車両に気づき得た筈であるのに、同人は自車前方約一四メートルに至つて発見しており、このことからも被告上野が脇見もしくは漫然と運転していたことは明らかである。つぎに、事故現場の道路幅は五・八メートル、被害者側車両幅は一・八メートルなので、有効な道路幅は四メートルのところ、被害者車両側には乗車している者がおり、反対側(道路東沿い)には店があつたから、この店または右車両からいつ誰が突然道路中央付近に出てくるかもしれない危険があつたのであるから、被告上野が残された幅四メートルの道路部分を加害車両を運転して通過するにあたつては、徐行またはこれに近い程度にまで減速し、事故発生の危険があるときは、即時停止してこれを未然に防止すべき義務があつた。

しかるに、被告はこれを怠り時速三五キロメートルで漫然通過しようとしたため、自車々体前頭部で原告を押し倒したのであるが、一旦事故が発生した場合、運転者たる被告上野としては直ちに下車して被害者の救護につき適切な措置をとるべき義務があるのに、同人はこれをも怠り、直ちに下車せず、却つて停止した加害車をさらに進め前車輪で原告の足の部分を轢過し、被害の内容、程度を倍加させ、その後においても適切な措置に出ず、現場より立去つた。

このように、本件事故は被告上野の過失のみによつて発生したもので、被害者たる原告や、その両親に本件事故発生の原因となるべき過失はなかつた。仮に、原告およびその両親にも何らかの過失があるとしても、その過失の程度は被告上野の方が大きいことは明らかであるから、過失相殺は極く少額にとどまるべきである。

証拠〔略〕

理由

一  事故の発生および責任原因

請求原因一の1ないし4の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一、第二号証と被告上野恒本人尋問の結果によると、つぎの事実が認められる。

事故発生現場道路は、幅員五・八メートル、歩車道の区別のない直線状の道路(府道大布施京北線)で前方の見通しはよく、路面はアスフアルト舗装され、平たんで、事故当時は乾燥していたこと。被告上野は事故当時は毎日一回は自動車を運転して事故現場付近を通過していたので、道路東側沿いに商店、人家が建ち並んでいる等周囲の状況や、交通量等もよく知つていたこと、事故発生前被告上野は荷台に杉丸太を満載した加害車(京一一か一二二三)を運転し、時速三五キロメートルくらいで南進してきて、自車前方五〇メートルくらいのところの、道路東端沿いにある安本商店の前の道路西端寄りに車首を北に向け駐車している普通乗用自動車(この車両右端は道路西端から一・八メートルの位置)を認め、商店に買物に来ている人があるから、商店から路上に人が出てくるかも知れないことは気にかけつつも、かと言つて別に減速措置をとることもせず進行したところ、自車前方八、九メートルの地点に至つて、前記駐車々両の後方から道路を横断しようとして中央部(道路西端から三・三メートルの地点)に小走りに進み出てきた原告(身長は一・〇七メートル)を発見し、急制動の措置をとつたが及ばず、自車前部右側フオーグランプ部分を原告に衝突させ、そのため路上に転倒した同人の足を車輪で圧したこと。事故発生後被告上野が運転席から被害者たる原告の発見可能地点を推定するため、警察官において高さ一・〇五メートルの「たばこ」の立看板を使用して実験した結果、これが前記駐車々両後部右(東)角にあるのを一八・五メートル前方から見通せたこと。

右認定の事実によれば、自動車運転者たる被告上野にも商店から路上へ人の出現が予測できた時点で減速措置をとり、かつ進路前方注視を厳にし、駐車々両後方へも注意を向けて進行すべきであつたのに、これを怠つた過失により、原告に気づくのが遅れ本件事故が発生したことが明らかであるから、被告上野には民法七〇九条により、本件事故で原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。さらに被告会社は事故当時被告上野の使用者であつたことは当事者間に争いがなく、前掲証拠および弁論の全趣旨によると、被告上野において被告会社の業務の執行として、加害車に杉丸太を積載運搬の途中、前記過失により本件事故を発生させた事実を認めることができ、このことからも被告会社が本件事故当時加害車を自己のために運行の用に供していたものと認められるので、被告会社は自動車損害賠償保障法三条により、本件事故で原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

二  損害

1  受傷、治療経過等

成立に争いのない乙第三、第四号証、原告法定代理人大塚厚子尋問の結果およびこれと弁論の全趣旨からいずれも真正に成立したものと認められる甲第一、第三、第四号証によると、原告は本件事故により、受傷当日から同月四日まで右足骨挫滅創、右下腿骨折、頭蓋骨々折、前額部挫創、左下腿、足背開放挫滅骨折の傷病名で、京都市中京区内の京都第二赤十字病院救急分院にて治療をうけた後、同月四日から兵庫県尼崎市内の中馬病院に入院、左下腿開放骨折、左第一、第二趾開放骨折、頭蓋骨々折、右下腿挫滅創(ケロイド形成)、左足趾屈曲拘縮と診断され、同月二七日病巣掻爬、左足第一、二、三趾壊死となり切断、植皮術、九月六日にも植皮術をうけ、九月二八日に一応退院、翌日から一一月一〇日まで同病院に通院治療のうえ、同月一一日から三〇日まで入院、一二月一日から昭和五〇年五月一一日まで通院し、翌日再度入院、同月二一日に左第一趾拘縮除去手術、六月二六日には左第一、二趾造趾術、拘縮除去、植皮術をうけ、七月二四日退院、七月二五日から昭和五一年八月一〇日まで通院して治療に努めたが、つぎのような後遺障害を生じた。

即ち、左第一、二、三趾基節骨基部で離断、第一ないし第五趾とも可動性殆んどなし、左足趾から足背部にかけて植皮部分変色、そうよう感がある。

右足背から下腿にかけてケロイド形成、腹部、両大腿部に六か所皮膚採取部瘢痕形成ありとの事実を認めることができる。

また原告法定代理人大塚厚子尋問の結果によると、原告は右後遺障害のため左足をひきずつて歩き、ふんばりがきかない。移植した皮膚が化膿してくるのではだしで走り廻つたりはできないし、とんだり、跳ねたりもできないことが窺われ、証人井上明生の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証によると、原告の後遺障害による現在および今後の生活に及ぼす支障ないし痛苦としては、1左足の親指、人さし指、中指の先端が切断され短かくなつている。2左足第四、五指が指のつけ根が伸展して、それより先端にある関節が屈曲している。いわゆる槌趾変形がある(足背部に皮膚と筋肉腱の癒着があつて非常にひきつれた状態になつている)ため、指がつかえてしまい靴がはけなくなる。3通常の場合体重は主として親指のつけ根と小指のつけ根、それに踵の三点で支えているのに、原告の場合は左足三番目の指のつけ根のところに体重がかかつている(通常の場合はこの三番、四番目あたりの指のつけ根は少し上つているのに、原告は逆になつている)という不自然な状態にあるため、かなり大きくなつてから、足の痛みをおこす可能性がある。4左足親指の先端の皮膚が瘢痕…足の骨が伸びるのに表面の皮膚が非常にかたくて、ひきつれた状態で皮膚が伸びないため、皮膚を突き破つて骨が出てくる。そのためそこからばい菌が入つて骨髄炎をおこしたり、痛みの原因になつたりする危険が予想される。5左足後足部に軽度の内反変形があつて足にかかつた荷重が内側に伝わり難いため、足の痛みの原因になる等の事実が認められる。

2  治療関係費

(一)  治療費

原告が本件事故による受傷治療のための費用としてその主張のとおり、京北病院に三〇〇〇円、鞍馬口病院に七八〇〇円、京都第二赤十字病院に三三万八〇八〇円、中馬病院に一八四万二一九四円の合計二一九万一〇七四円を支弁したことは当事者間に争いがない。

(二)  付添看護費

原告法定代理人大塚厚子尋問の結果と経験則によれば、原告は前記入院期間全部に亘り付添看護を要し、その間同人の母親が付添い一日二〇〇〇円の割合による合計四二万八〇〇〇円、さらに前記証拠と成立に争いのない乙第四号証によれば、原告は幼少のため前記通院中三九日間に及ぶ通院治療にも付添を要し、同人の母親がこれに当つたので一日一〇〇〇円の割合による合計三万九〇〇〇円の各損害を被つたものと認められるが、右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

(三)  入院雑費

原告が二一四日間入院したことは前記のとおりであり、右入院期間中一日五〇〇円の割合による合計一〇万七〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

(四)  通院交通費

成立に争いのない乙第四号証と原告法定代理人大塚厚子尋問の結果によると、原告は前記中馬病院へ治療のため通院するにあたり、歩行困難のためその都度タクシーを利用し、少なくとも片道一三〇〇円のタクシー料金を要した結果、合計三九回の往復分として一〇万一四〇〇円の交通費を要したことが認められるが、これを超える分については、その事実を認めるに足る証拠がない。

(五)  原告請求の将来支出が予想される治療費、入院雑費、付添看護費、通院交通費については、その治療(整復手術)の必要性は前掲甲第一、第五号証、証人井上明生の証言、原告法定代理人大塚厚子尋問の結果によつても認め得るところであるが、その損害額、治療内容については、現実に治療を担当する医師の治療方針によりかなりの差異を生ずること、治療時期についてもそう切迫したものではなく、原告の成長と症状との関連においてかなり(数年)先になることも窺えることから、これらは慰藉料額算定の斟酌事由として考慮するのを相当とする(慰藉料の補完的機能)。

3  後遺障害による将来の逸失利益

前記認定の受傷、後遺障害の部位、程度1なおこの点については、成立に争いのない検甲第一ないし検甲第四号証、証人井上明生の証言、原告法定代理人大塚厚子尋問の結果により認められる原告の後遺障害の現在および将来懸念される障害内容、即ち通常人の場合には、体重は主として足の親指のつけ根と小指のつけ根と踵の三点で支えている(三点支持)のであるが、原告の場合はその傷害の結果左足の三番目の指(普通三、四番目の指の裏は上つており荷重があまりかからない)のつけ根部分で体重を支えている結果(横軸アーチの機能低下)、かなり成長してから足の痛みをおこす可能性があること、また内反変形を生じている点からも同様三点支持の均衡がくずれ、足の痛みをおこす心配があること、左足親指の骨髄炎発生のおそれがあるからすれば、原告はその機能障害のため、将来就労可能年齢(一八歳)に達した後においても、長距離歩行、走行、跳躍、重量物運搬等には相当制限をうけ、これは自から職業選択上の支障ともなるものと認められる。もつとも原告が就労可能年齢に達するまでには、なお症状緩和のための医療処置をうけ、その身体状況に応じた職業訓練を重ねること等により、ある程度その障害を克服し得るとしても、なお通常人に比し、就職条件職種の範囲その他全般にわたり、その稼働能力発揮の機会を失いまたはより根本的にその労働能力を一部喪失するであろうことは否定できないものと認められる。そこで労働能力の喪失割合、その喪失期間については、就労者の場合に比し、極めて不確定的要素が多いため、自から控え目な認定にとどまることを免れないものの、原告の後遺障害程度である自賠責後遺障害等級第九級の場合の労働能力喪失率は一般的には労働基準監督局長通牒昭和三二、七、二基発第五五一号による三五%の割合を有力な参考資料としていることをも考慮に入れると、原告に後遺障害の発生が明らかとなつた昭和五〇年の賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計による男子労働者一八~一九歳の平均賃金を基準とし、一般に相当な力仕事にも従事可能と考えられる五五歳までの間、その労働能力を平均的に二〇%喪失するものと認めるのが相当である。そこで、この間における原告の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、三三八万四四八九円となる。

算式 一一三万七二〇〇円×〇・二×(二四・七〇一九-九・八二一一)=三三八万四四八九円

4  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度(自賠責保険後遺障害別等級第九級相当)、年齢、その他証人井上明生の証言とこれにより成立を認められる甲第五号証および原告法定代理人大塚厚子尋問の結果、これと弁論の全趣旨から成立を認められる甲第一、第二号証により認定できる以下の事情、即ち原告が少し大きくなつた段階で左第一から第四趾拘縮に対し観血的拘縮除去手術、もつとも左足背部の瘢痕拘縮に対しては、原告が従来中馬病院で植皮手術等をうけた結果現段階にまで至つたが、この状態から尚いくらかなりとも症状軽減を図るには、足背部の皮膚を少しでも正常に近いものに変えてやる必要があり、そのためには皮下脂肪を含めた厚い皮膚をそのまま移植するというこれまでとは異つた皮膚移植手術(四回に及ぶ)による方がより望ましい結果が期待できること、左足親指先端皮膚瘢痕の血行状態不良、骨が親指部分の皮膚を破り、そこへばい菌が入り骨髄炎を起こす等についても同様手術(二回に及ぶ)による方がより丈夫な皮膚を補充できるし、その手術方法自体割合一般化していること、これらの手術(付随的なものを含む)施行の結果(原告はこれらの手術をうける場合三月程度入院を要する)、原告の症状は横軸アーチの機能低下以外は相当改善されるものと窺われるが、これによる治療費は概算二一八万二四四〇円に上ること(中馬病院で今後も従来同様の方法による手術をうけることで治療するときは、概算一〇〇万五〇円の見積りがあるが、いずれにしても原告は自己の身体(腹部とか足)から健康な皮膚を切断し、患部に移植してもらうのであり、その間ひたすら結果の良好なることを願つて痛苦に耐えているのであるから、少なくとも治療関係で出捐が予想される費用には充分なる配慮を尽くすのが相当である。)。かくて、機能的には多少はその障害の軽減を期待し得るとしても、皮膚切除痕(それは今後手術を重ねる度に増し、左足親指の骨髄炎防止等のためにも、この部分は原告の成長期間中一回にとどまらないものと思われる)、左足背部から指にかけての著しい醜状痕等は終生消失することはない(そればかりかこれが第四、第五指の機能をも阻害する結果となつている)だけに、原告が長ずるにつれ、その心痛たるや深刻を極めるものがあろうと窺えること等諸般の事情を考え合せると、原告の慰藉料額は六五〇万円とするのが相当であると認められる(特に本件における原告の後遺障害等級は前記のとおり第九級とはいえ、それは三指の用を廃失した外に、付随的な障害や酷い醜状瘢痕、多くの皮膚切除痕をも残しており、これらにも相当の考慮を要する)。

三  過失相殺

証人大塚純子の証言、原告法定代理人大塚敏彦尋問の結果によると、大塚敏彦は自己が運転していた普通乗用自動車に妻の大塚厚子、息子である原告(事故当時三歳八月)、妹の大塚純子を同乗させていたが、安本商店で買物をするため、道路西端寄りに車を停め、先ず厚子が道路向い側の前記商店に行き、その後敏彦が原告を連れて同様店に入つたものの店内で購入物を選んでいて原告の動向に対する注意がおろそかになつたため、その間に原告が一人で店を出て停車々両の方に帰つたのにも気がつかなかつたこと。一方車両には純子が残つていて、原告が車内に入つてきたことには気づいたが、そのうち車外に出て再び両親のいる商店の方へ行こうとする気配が窺え、その時道路を通過して行く車両もあつたので、これが行き過ぎるまで原告が出ていくのを引き止めたが、その後は、車内に残つたまま眼を閉じていたところ、急ブレーキの音に驚き起き上つて、はじめて店の方に行こうとして道路を横断していた原告が加害車に衝突された本件事故を知つたことが認められる。右認定事実によれば、本件事故の発生については、原告の親権者たる大塚敏彦にも原告に対する監護義務違反の過失が認められるところ、前記認定の被告上野の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の三〇%を減ずるのが相当と認められる。

四  損害の填補

請求原因四の事実は、当事者間に争いがない。

よつて原告の前記損害額から右填補分五二〇万一四一三円を差引くと、残損害額は三七二万四二六一円となる。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は三七万円とするのが相当であると認められる。

六  結論

よつて被告らは各自、原告に対し、金四〇九万四二六一円およびこれにつき、被告北桑貨物株式会社は昭和五一年七月二日から、被告上野恒は同年同月三日(いずれも記録上各被告へ訴状が送達されたことが明らかな日の翌日)から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例